親鸞聖人伝絵 上 第七段 |
| 親鸞聖人は次のようなお話しをして下さいました。 《昔、師匠の法然上人の御前で、聖信房、勢観房、念仏房その他、大勢の弟子たちが私と議論し、お互いに譲らずに決着がつかないでいたことがありました。 それは、私（親鸞）が「源空（法然）上人のご信心と私・善信（親鸞）の信心とは少しも違いはなく、全く同じです。」と言ったところ、他の人たちが「あなたは師匠の法然さまのご信心と自分の信心が等しいと言われるが、どうしてそんなことが言えようか」と、私をとがめて言うのです。 そこで私は「どうして等しいと言わないでおれましょうか。確かに知恵や学識で同じだと言ったならばそれこそ大いなる誤りでしょう。しかし往生間違いなし、と信じる心をいただいたのは、他力信心の教えに導かれたからで、私が考え出して獲得したものではありません。法然上人のご信心も、師匠が作り出した信念ではなくて他力真宗の教えに導かれていただいたもの。私の信心もまた同じ。だから等しくて、違うところはない、と申し上げるのです。」とみんなに反論したところ、師匠の法然上人が口を開かれました。 「信心に違いがある、と言えるのは自力の信（自分の力を頼みにして覚りをひらく立場）にとってのことで、一人ひとりの能力に違いがあるのでその信心もみな違うのです。けれども他力の信心は、誰であっても仏様から賜る信心なので、私・源空の信心も善信（親鸞）の信心も賜ったもので、同一なのです。決して頭が良いから信心を得られるのではありません。信心に違いがあると思っている人は、私が還ってゆくことになる浄土へ往くことは出来ません。よく覚えておきなさい。」 その言葉に一同は舌を巻き、何も言えなくなったので、議論に決着がつきました。》 |